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名古屋高等裁判所 昭和51年(う)315号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審における未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。

押収してあるカフスボタン一組及びネクタイピン二個を被害者岩間章に、指輪一個を被害者福迫カズエにそれぞれ還付する。

理由

本件控訴の趣意は、津地方検察庁検察官検事高木重幸名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、被告人を懲役二年六月に処した原判決の量刑が軽過ぎて不当である、というのである。

所論に対する判断を示すに先立ち、職権をもって原判決の法令適用の当否について案ずるに、原判決は、その罪となるべき事実として、第一で、被告人が本件犯行前一〇年内に窃盗罪等で三回にわたり六月以上の懲役刑の執行を受け、更に常習として、前後三九回にわたる窃盗と前後二回にわたる窃盗未遂の各犯行を敢行した事実を、第二で、被告人が窃盗の目的で住居侵入の犯行を敢行した事実をそれぞれ認定判示し、更に、累犯原因となる前科二犯をも併せ認定判示したうえ、右各事実に対する法令の適用として、原判示第一の所為は包括して「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」三条(二条)に、同第二の所為は刑法一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号に各該当するとし、右第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、三犯の加重をしたうえ、右の各罪が刑法四五条前段の併合罪の関係にあるとして、重い原判示第一の罪の刑に併合罪の加重をし、更に、酌量減軽をした刑期の範囲内で処断する旨説示していることが原判文上明らかである。ところで、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」の立法趣旨等に照らして勘案すると、同法三条は、同法二条の補充規定としての関係にあることが、右各法文の規定文言から窺知されるので、該各法文の右のような関係を考慮すれば、同法三条の常習累犯窃盗の罪の場合にも、同法二条の常習特殊窃盗の罪の場合と同様に、窃盗の犯行手段としての住居侵入の所為が、その構成要件的事実として当然に取り入れられていると解するのが相当である。そして、原判決挙示の証拠によれば、原判示第二の犯行は、被告人の常習的盗癖の発露として敢行したものであることが明らかであるから、該犯行は、原判示第一の各犯行と共に本件の常習累犯窃盗罪を構成するものであって、これが別罪を構成するものではない。そうとすれば、原判決が、前叙のとおり、その法令の適用の部において、原判示第一の常習累犯窃盗の罪のほかに別個に住居侵入の罪の成立を認め、これらの罪について併合罪の処理をしたのは、明らかに、右の「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」三条の解釈適用を誤ったものといわねばならず、該違法は、構成要件的評価を誤ったものであって、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、検察官の量刑不当の論旨について判断を示すまでもなく、右の点で、破棄を免れない。

よって、検察官の量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訟訴法三九七条一項、三八〇条に則り、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所において更に判決する。

原判決が認定した罪となるべき事実(但し、原判決書中本判決末尾添付の別紙正誤表の「誤」欄の各記事は、同表「正」欄記載の各誤記と認められるので、これらをその旨訂正する。)は包括して「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」三条(二条)に該当するところ、被告人には原判示の累犯原因となる前科があるので、刑法五九条、五六条一項、五七条に従い、同法一四条の制限内で累犯の加重をしたうえ、記録に現れた被告人の性行、経歴、前科をはじめ、本件犯行の動機、態様、罪質等諸般の情状を総合勘案して、右の法律上の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役三年に処し、同法二一条に従い、原審における未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、押収してある主文第四項掲記の各賍物は、刑事訴訟法三四七条一項により、これらを当該各被害者に還付し、原審及び当審における訴訟費用については、同法一八一条一項但書を適用して、これを被告人に負担させないこととする。

以上の理由により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤本忠雄 裁判官 深田源次 川瀬勝一)

〈以下省略〉

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